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【小説】扉を開けて(7)
2008-12-25 (Thu)
扉を開けて(7) 作/RENJI恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。そんな由菜を優しく見守る、親友「美恵」の思いと願い───…。由菜には、届いているのだろうか……。本当の笑顔が見れる日は来るのだろうか……。...
扉を開けて(7) 作/RENJI
恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。
そんな由菜を優しく見守る、親友「美恵」の思いと願い───…。
由菜には、届いているのだろうか……。
本当の笑顔が見れる日は来るのだろうか……。
続きを読む……
美恵より先に教室に着いたあたしは、席に着くなり、重い溜め息を吐く。
(どうして逃げたりしたんだろう……)
ばかだなぁ……。美恵に誤解されたくなくて、逃げるなんて……。
余計に誤解されちゃうだけなのに、どうして逃げたりしたの……。
(ねぇ、どうして……?)
あたしは、そう自分を責めるけど……。
でもとっさになんて答えればいいのかなんて、わからなかった。
やっぱり……。
どう考えたって……。
あの場は、美恵の前から逃げる事しか出来なかった。
だけど、どうしたらいい?
このままじゃ、ずっと誤解されたままになってしまう……。
………………。
そんなこと考えてるあたしの後ろから、美恵が机の横を静かに通り過ぎ、席に着いた。
美恵の席はあたしの前で、席に着くとゆっくりと振り返った。
「由菜……」
そう言って、あたしの顔を見ると、美恵は小さく首を横に振って、何も言わず前を向いた。
(何も聞かずにいてくれるの……?)
ねぇ、どうして……?
いつもの美恵なら、きっと……。ううん。
絶対に聞くはずなのに、何も聞かない。
『ねぇ、どうしてなの……? どうして、何も聞かないの?』
あたしは心の中で、そう美恵の背中に向かって問い掛けるけど……。
あたしの気持ちを一番に考えてくれる美恵なら、聞けるはずが……ないよね。
新田君の声が『涼』に似てるから……。
新田君と『涼』をダブらせているんじゃないか、なんて聞けないよね。
だけど……なんて言えば誤解は解ける?
そんなのわからない……。
(でも誤解されたままなんて、嫌だよ!)
そんなこと思いながら授業を受けるけど、ちっとも身に入らないくて……。
いつもなら休み時間に何も喋らない事なんてないのに、何も話せないまま---------…。
あたしと美恵の間に、気まずい空気が流れる……。
そして、お昼休み---------…。
あたしは、やっとの思いで声をかけた。
「みっ……美恵」
あたしの微かな声に、美恵が振り向く。
「やっ、やだなぁ……。どうしたのよ、美恵。朝から何も喋らなくなっちゃって……。あたしまで話しかけられなく、なっちゃうでしょ」
あたしのぎこちない喋り方に美恵は何も言わず、あたしの目をじっと見てる。
------少しの沈黙の後。
「……朝のこと気にしてるなら、大丈夫だよ。あの時は、とっさに逃げちゃったけど……。美恵に誤解されたくなくて、何て言ったらいいのか、わからなかったの。でもね、美恵が思っているようなことないよ。確かに、新田君の声は『涼』に似てるけど、新田君と『涼』は違う。大丈夫だよ。あたしわかってるから、もう涼はいないって……。ね、心配しないで……」
そうあたしが言うと、美恵の見つめる目が優しくなった。
「ごめんね……。あたしの思い過ごしだった、みたいね」
「うん。わかってる。新田君と涼をダブらせているんじゃないかって、そう思ったんでしょ?」
あたしが、そう言うと美恵がゆっくりと頷き、話し出す。
「由菜に≪男友達が出来た≫って聞いた時は、自分のことのように嬉しくて、喜んだけど……。今朝、新田君の声を聞いた時……、喜ぶんじゃなかったって思った。由菜は、まだ涼の影を見続けてるって……」
(………………)
美恵の誤解は、やっぱり、あたしの思った通りだった。
だけど、美恵が珍しく自分の思ってるいことを、素直に口にしてくれたから、あたしはとても嬉しかった。
いつもの美恵なら、涼のことをこんなふうに言わない。
なるべくなら、あたしの前で『涼』のことを口にしないようにしてくれている。
あたしが、1日でも早く、≪思い出から≫さよなら出来るように……。
「大丈夫だよ。あたしは、いつまでも思い出を引きずったりなんか、しないんだからっ!」
あたしは美恵に心配させないようにと、そう言いながら、とびきりの笑顔見せたけど……。
どこか、ぎこちない……。
自分に嘘ついてるから------…。
忘れられるはずないのに……。
あたしの心の中は、いつだって『涼』との思い出で一杯------…。
楽しかった思い出も……。
今は胸が苦しくなるだけなのに、忘れられなくて、思い出を引きずったまま------…。
あたしの心の中は、涼が亡くなった。
------あの日。
止まってしまった……。
もう、ずっと進めないまま------…。
本当は心のずっと……奥、微かな声で叫んでる。
自分自身に問い掛けてる。
ねぇ、どうしたらいい……?
どうしたら、この苦しみから解放されるの……?
ねぇ、教えて……教えてよ。
どうすれば、楽になれるの……?
答えなんか『ある』はずないのに……。
美恵に聞いてみたら、少しは楽になれるんじゃないか……って、思ってみたりもする。
そんなこと聞けるはずもないのに、ね。
だから、今は笑うことしか出来ないの。
そう、笑うことしか……。
「由菜も……早く新しい恋を見つけなくっちゃ! ねっ♪」
美恵があたしの肩をポンと叩いた。
だけど……。
『そうだね』って、言えなかった。
自分に嘘つけなくて……。
あたしは何も言わず、コクリ頷いた。
---------この時。
美恵の顔が、一瞬……厳しくなり。
ねぇ、由菜。信じていいの?
新田君と涼をダブらせていないと……。
涼の思い出は……由菜を悲しませる影は消えたの?
由菜の言葉、信じたいけど……。
まだ由菜の笑顔、本物じゃないよ。
ねぇ、由菜……。
思い出はね、悲しむばかりじゃないんだよ。
いつか素敵な思い出に変わる日が来ること、早く……気付いて欲しい。
気付いた時が、変わる日だよ。
きっと……。
その日が来ること、天国から『涼』も願っているよ。
そう美恵が心の中で、あたしに語り掛けていることなんて、知るよしもなく。
今は悲しいだけの思い出が……。
いつの日か素敵な思い出に変わるのは……。
これから、ずっと先のことだった---------…。
≪続く≫
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そんな由菜を優しく見守る、親友「美恵」の思いと願い───…。
由菜には、届いているのだろうか……。
本当の笑顔が見れる日は来るのだろうか……。
続きを読む……
美恵より先に教室に着いたあたしは、席に着くなり、重い溜め息を吐く。
(どうして逃げたりしたんだろう……)
ばかだなぁ……。美恵に誤解されたくなくて、逃げるなんて……。
余計に誤解されちゃうだけなのに、どうして逃げたりしたの……。
(ねぇ、どうして……?)
あたしは、そう自分を責めるけど……。
でもとっさになんて答えればいいのかなんて、わからなかった。
やっぱり……。
どう考えたって……。
あの場は、美恵の前から逃げる事しか出来なかった。
だけど、どうしたらいい?
このままじゃ、ずっと誤解されたままになってしまう……。
………………。
そんなこと考えてるあたしの後ろから、美恵が机の横を静かに通り過ぎ、席に着いた。
美恵の席はあたしの前で、席に着くとゆっくりと振り返った。
「由菜……」
そう言って、あたしの顔を見ると、美恵は小さく首を横に振って、何も言わず前を向いた。
(何も聞かずにいてくれるの……?)
ねぇ、どうして……?
いつもの美恵なら、きっと……。ううん。
絶対に聞くはずなのに、何も聞かない。
『ねぇ、どうしてなの……? どうして、何も聞かないの?』
あたしは心の中で、そう美恵の背中に向かって問い掛けるけど……。
あたしの気持ちを一番に考えてくれる美恵なら、聞けるはずが……ないよね。
新田君の声が『涼』に似てるから……。
新田君と『涼』をダブらせているんじゃないか、なんて聞けないよね。
だけど……なんて言えば誤解は解ける?
そんなのわからない……。
(でも誤解されたままなんて、嫌だよ!)
そんなこと思いながら授業を受けるけど、ちっとも身に入らないくて……。
いつもなら休み時間に何も喋らない事なんてないのに、何も話せないまま---------…。
あたしと美恵の間に、気まずい空気が流れる……。
そして、お昼休み---------…。
あたしは、やっとの思いで声をかけた。
「みっ……美恵」
あたしの微かな声に、美恵が振り向く。
「やっ、やだなぁ……。どうしたのよ、美恵。朝から何も喋らなくなっちゃって……。あたしまで話しかけられなく、なっちゃうでしょ」
あたしのぎこちない喋り方に美恵は何も言わず、あたしの目をじっと見てる。
------少しの沈黙の後。
「……朝のこと気にしてるなら、大丈夫だよ。あの時は、とっさに逃げちゃったけど……。美恵に誤解されたくなくて、何て言ったらいいのか、わからなかったの。でもね、美恵が思っているようなことないよ。確かに、新田君の声は『涼』に似てるけど、新田君と『涼』は違う。大丈夫だよ。あたしわかってるから、もう涼はいないって……。ね、心配しないで……」
そうあたしが言うと、美恵の見つめる目が優しくなった。
「ごめんね……。あたしの思い過ごしだった、みたいね」
「うん。わかってる。新田君と涼をダブらせているんじゃないかって、そう思ったんでしょ?」
あたしが、そう言うと美恵がゆっくりと頷き、話し出す。
「由菜に≪男友達が出来た≫って聞いた時は、自分のことのように嬉しくて、喜んだけど……。今朝、新田君の声を聞いた時……、喜ぶんじゃなかったって思った。由菜は、まだ涼の影を見続けてるって……」
(………………)
美恵の誤解は、やっぱり、あたしの思った通りだった。
だけど、美恵が珍しく自分の思ってるいことを、素直に口にしてくれたから、あたしはとても嬉しかった。
いつもの美恵なら、涼のことをこんなふうに言わない。
なるべくなら、あたしの前で『涼』のことを口にしないようにしてくれている。
あたしが、1日でも早く、≪思い出から≫さよなら出来るように……。
「大丈夫だよ。あたしは、いつまでも思い出を引きずったりなんか、しないんだからっ!」
あたしは美恵に心配させないようにと、そう言いながら、とびきりの笑顔見せたけど……。
どこか、ぎこちない……。
自分に嘘ついてるから------…。
忘れられるはずないのに……。
あたしの心の中は、いつだって『涼』との思い出で一杯------…。
楽しかった思い出も……。
今は胸が苦しくなるだけなのに、忘れられなくて、思い出を引きずったまま------…。
あたしの心の中は、涼が亡くなった。
------あの日。
止まってしまった……。
もう、ずっと進めないまま------…。
本当は心のずっと……奥、微かな声で叫んでる。
自分自身に問い掛けてる。
ねぇ、どうしたらいい……?
どうしたら、この苦しみから解放されるの……?
ねぇ、教えて……教えてよ。
どうすれば、楽になれるの……?
答えなんか『ある』はずないのに……。
美恵に聞いてみたら、少しは楽になれるんじゃないか……って、思ってみたりもする。
そんなこと聞けるはずもないのに、ね。
だから、今は笑うことしか出来ないの。
そう、笑うことしか……。
「由菜も……早く新しい恋を見つけなくっちゃ! ねっ♪」
美恵があたしの肩をポンと叩いた。
だけど……。
『そうだね』って、言えなかった。
自分に嘘つけなくて……。
あたしは何も言わず、コクリ頷いた。
---------この時。
美恵の顔が、一瞬……厳しくなり。
ねぇ、由菜。信じていいの?
新田君と涼をダブらせていないと……。
涼の思い出は……由菜を悲しませる影は消えたの?
由菜の言葉、信じたいけど……。
まだ由菜の笑顔、本物じゃないよ。
ねぇ、由菜……。
思い出はね、悲しむばかりじゃないんだよ。
いつか素敵な思い出に変わる日が来ること、早く……気付いて欲しい。
気付いた時が、変わる日だよ。
きっと……。
その日が来ること、天国から『涼』も願っているよ。
そう美恵が心の中で、あたしに語り掛けていることなんて、知るよしもなく。
今は悲しいだけの思い出が……。
いつの日か素敵な思い出に変わるのは……。
これから、ずっと先のことだった---------…。
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【小説】扉を開けて(6)
2008-08-21 (Thu)
扉を開けて(6) 作/RENJI恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。大好きだった涼の笑顔が、今も変わらず輝いている。なのに、どうして……?新田君のことが、頭から離れないの……。...
扉を開けて(6) 作/RENJI
恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。
大好きだった涼の笑顔が、今も変わらず輝いている。
なのに、どうして……?
新田君のことが、頭から離れないの……。
続きを読む……
翌日------…。
「由菜------っ! 早くしないと、学校に遅れるわよ」
お母さんの呼ぶ声が一階から聞こえて、あたしは着替え終わった制服の仕上げに、リボンを襟元にかける。そして鏡の前に立つと、制服の乱れを直しながら、髪の毛が跳ねていないか、一通りチェックする。
女の子ならこんなこと当たり前で、チェックし終わると『行ってきまーす』なんて言いながら、学校に向かってた。
------あの頃。
毎日、朝が来るのが、ただ待ち遠しかった……。
でも………今は違う。
朝なんて来なければいいと、夜が来るたびに思う。
このまま眠り続けてしまえば、どんなに楽だろう……。
何度となく思い、泣いてばかりいる。
時は流れ、涙の数は減っても、その思いだけは変わらない……。
朝は、嫌だ……。
どんなに楽しい夢を見ても、目覚めれば覚めてしまい、朝が来るたびに思い知らされる。
大好きだった人は、もういない……。
「おはよう。今日も、いい天気だよ」
机の上に置いてある写真立ての中、大好きだった涼の笑顔が、今も変わらず輝いている。
もう1年が過ぎてしまった……。
こうして毎朝。
写真立ての中の涼に、語り掛ける日々……。
学校に行く前の、朝の日課になっている。
「由菜------っ! 遅くなるわよ!」
(わかってるってばぁ……)
ままの呼ぶ声に、そう思いながら部屋を出る。
階段を下りる足が、何故か悲しげで……。
「行ってきます!」
その声さえも元気がないことに、あたしは最近になってから気付いた。
でも、そう言って、玄関のドアを閉めた後……。
家の中では笑うことの少ないあたしが、少しでも多く笑えること、自分自身に感謝してる。
『笑顔が似合うよ』
そう言ってくれた涼の為にも、とびきりの笑顔見せなくちゃ……。
そんなこと思いながら、毎日過ごしてる。
「はあーっ」
登校途中、溜め息を吐く。
昨日、あたしに告白した新田卓哉。
あいつに会いたくないと思いながら、心のどこか、会いたいという気持ちがある。
わかってる、わかってるの。
新田君は、涼じゃない……。
わかってるけど、友達ならいいよね。
そう自分の心の中、言い聞かせながら、とことこ歩くあたしの後ろから------…。
「由菜---------っ! 由菜ってばぁ」
そう呼び止める美恵の声に、あたしが振り返る。
「おはよっ! なに、シケた顔してんのよ?」
美恵が小走りで近付いて来て、あたしの肩をポンと叩くと、そう言って、あたしの顔を見る。
「えっ……。シケた顔なんて……」
「してるよ。いつもの由菜じゃないわね。どこか元気ないもの……」
「そんなこと……ないよ」
「そうかなぁ……。昨日、告白されたことが関係あるんじゃないの?」
「嫌だなぁ。そんなことないよ。あたしは、元気! いつもと変わんないってばっ!」
そう言ったものの、自分でもわかってる。
確かに美恵が言った通り、新田君に関係があるもの。
だけど、それは告白されたとかじゃなくて、声が……似てるから、つらい……。
大好きだった涼の声に似てるから、辛くて、苦しい……。
もう涼はいないのに、わかってるのに……。
昨日、新田君の声を聞いた時、まるで……そこに涼がいるみたいで……。
でも違くて、悲しくて……。
胸の奥、張り裂けそうで、辛かった……。
涼に会いたくて……、会えなくて……。
だからこそ、新田君の声を聞いた時、胸が締め付けられそうな、心のずっと……奥、自分でもわからない程の小さな安心感があった。
「そう。元気なら、いいのよ」
そう言って、美恵が微笑むけど……。
きっと美恵はあたしが嘘付いてることぐらい、わかっていると思う。
「ところで、由菜」
美恵が、あたしを見上げる。
あたしは美恵の言葉としぐさで、珍しく考えていることがわかった。
(新田君のこと、聞こうとしてる)
「ねぇ、美恵は知ってた? 1ヵ月くらい前に転校して来た子のこと……」
だからこそ、逆に聞いてみたの。
何故なら、情報の早い美恵からも『転校生が来た』なんて、そんな話し聞いた覚えがないからなの。
だから美恵でも、知らないことはあるんだなーってね。
でもそれは、あたしの思い過ごしだった。
「知ってるよ。A組に転校して来た子でしょ。女の子達がカッコイイとか言っちゃって、大騒ぎしてたじゃない。うーんと。確か、新田君とか言ったかな」
「……ふーん。そうなんだ!!」
新田君のこと知らなかったのは、美恵じゃなくて、あたしの方だった。
ううん。知らないのは……。
同級生の中で、あたしだけなんてこと、あるかも知れない……。
「やだぁ! あんなに騒いでたのに知らなかったの!?」
「うっ、うん……」
「あれっ? 確か、由菜に話したよ。どんな子か、見に行ってみようか……って」
「そっ、そうだったっけ……!?」
そんなこと初めて聞いて、驚いてるあたしの顔を見ながら、クスッと美恵が笑った。
「まいったなぁ。いくら男に興味ないとは言っても、少しくらい関心持ってもいいと思うよ」
「う、うん。……そうだね」
あたしは苦笑いしながら、そう答えた。
だけど、こればかりは、しょうがないのよね。
もう恋はしないと決めた日から、あたしの頭の中、涼のことしかなくて、涼以外考えられなくて……。
他の男の人のことなんて、どんな話でも聞きたくないの。
だからいつも美恵が話してくれる、男子の話題なんて、いつだって上の空。
でも新田君のことは、頭から離れなくて……。
なぜだろう……?
どうして……?
きっと涼の声に似てるから、忘れられないんだ。
こうして、今も、頭から離れない。
(気にしてる……)
「でも珍しいじゃない。由菜が男のこと聞くなんて……。で、その転校生が、どうしたの?」
「……そいつなの。昨日、私を呼び出した奴って……」
あたしは、昨日のことを詳しく話した。
「そうかぁ。由菜ってば、一目惚れされちゃったんだ。やるじゃん!」
そう言って、まだ新田君の声を聞いたことのない美恵が、優しく微笑んだ。
その笑顔の中に隠れた美恵の微かな期待は……、言うまでもなく、すぐに消え去り、不安に変わった。
キーんコーン・カーンコーン……。
学校の近くまで来たところで、始業のチャイムが鳴り、あたしと美恵は走り出す。
「やだぁ。遅刻になっちゃうよー」
「由菜。早くいこうッ!」
2人揃って走り出す。
全速力で走った甲斐があって、あたし達は何とかチャイムが鳴り終るまでに、校門をくぐり抜けた。
「おはよっ、ございっ……ますっ!」
2人とも息を切らしながら、校門のところに立っている先生方に挨拶をすると、ゆっくりと玄関に向かった。
下駄箱の前---------…。
「おはよっ、由菜」
靴を履き替えようとするあたしの後ろから、優しい声がして、振り向いた。
(新田君……!!)
そこには、壁に寄り掛かりながら、腕組みして立っている新田君がいた。
「遅いな……。もう少し早く来ないと、遅刻だよ」
新田君が、呟くように言って……。
「少し、待ちくたびれたかな……」
そう言うと、微かに微笑んだ。
(えっ………?)
『待ちくたびれた』って、誰を待ってたの?
あっ、あたしぃ……!?
そっ……そんな訳ないよね。まさか、ね。
「あんただろ。由菜の親友って……。俺、新田卓哉。よろしくッ!」
新田君が美恵の方にゆっくりと近付いて来て、少し低めの声で、そう言った。
その瞬間------…。
一瞬……忘れていた美恵の存在に気付き、あたしはゆっくりと美恵の顔を見た。
美恵は驚いた顔をして、新田君の顔を呆然と見ていた。
「なっ、何だよぉ!? 俺、そんなに驚かれるようなこと、何もしてないぜっ!!」
新田君の声に、美恵がハッとして……。
「こ……声が……!!」
美恵が小声で言うと、突き刺すような悲しい瞳で、あたしを見た。
(誤解してる……)
新田君の声が『涼』に似てるから------…。
きっと美恵は、あたしが新田君に『涼』の面影を重ねて見ていると思ってる。
「由菜、あんた……」
美恵の言葉に、あたしは即答えた。
「ちっ、違う……。違うよ、美恵!」
あたしは首を大きく横に振って、否定した後------…。
その場から逃げるように走り去り、1人教室に向かった。
美恵に思っていること、わかる、わかるけど……。
でも、でも違う……。
違うよ、美恵……。
あたし、新田君と涼をダブらせてなんか……いない。
ダブらせてなんか……いない、よ。
≪続く≫
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大好きだった涼の笑顔が、今も変わらず輝いている。
なのに、どうして……?
新田君のことが、頭から離れないの……。
続きを読む……
翌日------…。
「由菜------っ! 早くしないと、学校に遅れるわよ」
お母さんの呼ぶ声が一階から聞こえて、あたしは着替え終わった制服の仕上げに、リボンを襟元にかける。そして鏡の前に立つと、制服の乱れを直しながら、髪の毛が跳ねていないか、一通りチェックする。
女の子ならこんなこと当たり前で、チェックし終わると『行ってきまーす』なんて言いながら、学校に向かってた。
------あの頃。
毎日、朝が来るのが、ただ待ち遠しかった……。
でも………今は違う。
朝なんて来なければいいと、夜が来るたびに思う。
このまま眠り続けてしまえば、どんなに楽だろう……。
何度となく思い、泣いてばかりいる。
時は流れ、涙の数は減っても、その思いだけは変わらない……。
朝は、嫌だ……。
どんなに楽しい夢を見ても、目覚めれば覚めてしまい、朝が来るたびに思い知らされる。
大好きだった人は、もういない……。
「おはよう。今日も、いい天気だよ」
机の上に置いてある写真立ての中、大好きだった涼の笑顔が、今も変わらず輝いている。
もう1年が過ぎてしまった……。
こうして毎朝。
写真立ての中の涼に、語り掛ける日々……。
学校に行く前の、朝の日課になっている。
「由菜------っ! 遅くなるわよ!」
(わかってるってばぁ……)
ままの呼ぶ声に、そう思いながら部屋を出る。
階段を下りる足が、何故か悲しげで……。
「行ってきます!」
その声さえも元気がないことに、あたしは最近になってから気付いた。
でも、そう言って、玄関のドアを閉めた後……。
家の中では笑うことの少ないあたしが、少しでも多く笑えること、自分自身に感謝してる。
『笑顔が似合うよ』
そう言ってくれた涼の為にも、とびきりの笑顔見せなくちゃ……。
そんなこと思いながら、毎日過ごしてる。
「はあーっ」
登校途中、溜め息を吐く。
昨日、あたしに告白した新田卓哉。
あいつに会いたくないと思いながら、心のどこか、会いたいという気持ちがある。
わかってる、わかってるの。
新田君は、涼じゃない……。
わかってるけど、友達ならいいよね。
そう自分の心の中、言い聞かせながら、とことこ歩くあたしの後ろから------…。
「由菜---------っ! 由菜ってばぁ」
そう呼び止める美恵の声に、あたしが振り返る。
「おはよっ! なに、シケた顔してんのよ?」
美恵が小走りで近付いて来て、あたしの肩をポンと叩くと、そう言って、あたしの顔を見る。
「えっ……。シケた顔なんて……」
「してるよ。いつもの由菜じゃないわね。どこか元気ないもの……」
「そんなこと……ないよ」
「そうかなぁ……。昨日、告白されたことが関係あるんじゃないの?」
「嫌だなぁ。そんなことないよ。あたしは、元気! いつもと変わんないってばっ!」
そう言ったものの、自分でもわかってる。
確かに美恵が言った通り、新田君に関係があるもの。
だけど、それは告白されたとかじゃなくて、声が……似てるから、つらい……。
大好きだった涼の声に似てるから、辛くて、苦しい……。
もう涼はいないのに、わかってるのに……。
昨日、新田君の声を聞いた時、まるで……そこに涼がいるみたいで……。
でも違くて、悲しくて……。
胸の奥、張り裂けそうで、辛かった……。
涼に会いたくて……、会えなくて……。
だからこそ、新田君の声を聞いた時、胸が締め付けられそうな、心のずっと……奥、自分でもわからない程の小さな安心感があった。
「そう。元気なら、いいのよ」
そう言って、美恵が微笑むけど……。
きっと美恵はあたしが嘘付いてることぐらい、わかっていると思う。
「ところで、由菜」
美恵が、あたしを見上げる。
あたしは美恵の言葉としぐさで、珍しく考えていることがわかった。
(新田君のこと、聞こうとしてる)
「ねぇ、美恵は知ってた? 1ヵ月くらい前に転校して来た子のこと……」
だからこそ、逆に聞いてみたの。
何故なら、情報の早い美恵からも『転校生が来た』なんて、そんな話し聞いた覚えがないからなの。
だから美恵でも、知らないことはあるんだなーってね。
でもそれは、あたしの思い過ごしだった。
「知ってるよ。A組に転校して来た子でしょ。女の子達がカッコイイとか言っちゃって、大騒ぎしてたじゃない。うーんと。確か、新田君とか言ったかな」
「……ふーん。そうなんだ!!」
新田君のこと知らなかったのは、美恵じゃなくて、あたしの方だった。
ううん。知らないのは……。
同級生の中で、あたしだけなんてこと、あるかも知れない……。
「やだぁ! あんなに騒いでたのに知らなかったの!?」
「うっ、うん……」
「あれっ? 確か、由菜に話したよ。どんな子か、見に行ってみようか……って」
「そっ、そうだったっけ……!?」
そんなこと初めて聞いて、驚いてるあたしの顔を見ながら、クスッと美恵が笑った。
「まいったなぁ。いくら男に興味ないとは言っても、少しくらい関心持ってもいいと思うよ」
「う、うん。……そうだね」
あたしは苦笑いしながら、そう答えた。
だけど、こればかりは、しょうがないのよね。
もう恋はしないと決めた日から、あたしの頭の中、涼のことしかなくて、涼以外考えられなくて……。
他の男の人のことなんて、どんな話でも聞きたくないの。
だからいつも美恵が話してくれる、男子の話題なんて、いつだって上の空。
でも新田君のことは、頭から離れなくて……。
なぜだろう……?
どうして……?
きっと涼の声に似てるから、忘れられないんだ。
こうして、今も、頭から離れない。
(気にしてる……)
「でも珍しいじゃない。由菜が男のこと聞くなんて……。で、その転校生が、どうしたの?」
「……そいつなの。昨日、私を呼び出した奴って……」
あたしは、昨日のことを詳しく話した。
「そうかぁ。由菜ってば、一目惚れされちゃったんだ。やるじゃん!」
そう言って、まだ新田君の声を聞いたことのない美恵が、優しく微笑んだ。
その笑顔の中に隠れた美恵の微かな期待は……、言うまでもなく、すぐに消え去り、不安に変わった。
キーんコーン・カーンコーン……。
学校の近くまで来たところで、始業のチャイムが鳴り、あたしと美恵は走り出す。
「やだぁ。遅刻になっちゃうよー」
「由菜。早くいこうッ!」
2人揃って走り出す。
全速力で走った甲斐があって、あたし達は何とかチャイムが鳴り終るまでに、校門をくぐり抜けた。
「おはよっ、ございっ……ますっ!」
2人とも息を切らしながら、校門のところに立っている先生方に挨拶をすると、ゆっくりと玄関に向かった。
下駄箱の前---------…。
「おはよっ、由菜」
靴を履き替えようとするあたしの後ろから、優しい声がして、振り向いた。
(新田君……!!)
そこには、壁に寄り掛かりながら、腕組みして立っている新田君がいた。
「遅いな……。もう少し早く来ないと、遅刻だよ」
新田君が、呟くように言って……。
「少し、待ちくたびれたかな……」
そう言うと、微かに微笑んだ。
(えっ………?)
『待ちくたびれた』って、誰を待ってたの?
あっ、あたしぃ……!?
そっ……そんな訳ないよね。まさか、ね。
「あんただろ。由菜の親友って……。俺、新田卓哉。よろしくッ!」
新田君が美恵の方にゆっくりと近付いて来て、少し低めの声で、そう言った。
その瞬間------…。
一瞬……忘れていた美恵の存在に気付き、あたしはゆっくりと美恵の顔を見た。
美恵は驚いた顔をして、新田君の顔を呆然と見ていた。
「なっ、何だよぉ!? 俺、そんなに驚かれるようなこと、何もしてないぜっ!!」
新田君の声に、美恵がハッとして……。
「こ……声が……!!」
美恵が小声で言うと、突き刺すような悲しい瞳で、あたしを見た。
(誤解してる……)
新田君の声が『涼』に似てるから------…。
きっと美恵は、あたしが新田君に『涼』の面影を重ねて見ていると思ってる。
「由菜、あんた……」
美恵の言葉に、あたしは即答えた。
「ちっ、違う……。違うよ、美恵!」
あたしは首を大きく横に振って、否定した後------…。
その場から逃げるように走り去り、1人教室に向かった。
美恵に思っていること、わかる、わかるけど……。
でも、でも違う……。
違うよ、美恵……。
あたし、新田君と涼をダブらせてなんか……いない。
ダブらせてなんか……いない、よ。
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【小説】扉を開けて(5)
2008-08-21 (Thu)
扉を開けて(5) 作/RENJI恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。大好きだった涼の笑顔が、今も変わらず輝いている。そんな由菜の前に現れた、新田卓哉。彼の声は、亡き恋人の涼に似てた……!...
扉を開けて(5) 作/RENJI
恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。
大好きだった涼の笑顔が、今も変わらず輝いている。
そんな由菜の前に現れた、新田卓哉。彼の声は、亡き恋人の涼に似てた……!
続きを読む……
その日の夜------…。
「あたしね。今日、告白されちゃったんだよ。確か、新田卓哉って言ったかな。そいつの声って、涼にそっくりなんだ。付き合ってくれないか……って言われた時、まるで涼に言われてるみたいだったよ。だけど、違うんだよね。うん、わかってる。わかってるから、ちゃんと断ったよ。あたしには、涼がいるから……。でもね。そいつったら、友達ならいいだろ……なんて言ってくるから、あたし、OKしちゃったよ。……友達ならいいよね。友達なら……いいでしょ? ねぇ、涼……」
(だって涼はあたしに、語り掛けてはくれないもの……)
あたしは自分の部屋で、そう涼の写真に語り掛ける。
いつからだろう……。
こうして涼の写真に語り掛けるようになったのは……。
そう、涼が亡くなって間もない頃……。
悲しくて悲しくて、気がおかしくなりそうな夜。
会いたくて会いたくて……。
あたしは、アルバムの扉を開いてた……。
涼の写真を1枚ずつ見ながら、色んなことを思い出しては泣き、ふと気付くと、あたしは写真の中の涼に語り掛けるようになっていた。
その頃から、まるで生きている涼と話してるかのように……。
自分の心を閉ざしてしまうとわかりながらも、あたしは、そうすることで安心出来た。
涼が傍に居る様な気がして……。
だからなの。
1年が経った今でさえ、涼の写真に語り掛ける日々……。
それも決まって、午後9時30分。
どうしてかというと------。
それは……涼が生きてた頃。
毎晩、この時間になると、涼から電話があったからなの。
------ナイト・コール。
あたしは、とても楽しみに待っていた。
時間より、少しでも早く電話のベルが鳴ると凄く嬉しくて、遅いと不安で落ち着かなかったこと、今でも覚えてる。
電話の置いてある場所の前を、行ったり来たりしてたなぁ……。
でも、もう、そんなことする必要なくなってしまった。
トゥルルルル♪ トゥルルルル♪
そう、この時間、こんなふうに電話が掛かってくる事なんて、なくなってしまったのだから------…。
トゥルルルル♪ トゥルルルル♪
こんな……ふう……に……。
------え!?
本当に電話のベルが鳴っている!!
こんな時間に誰かな……?
「由菜------っ! 美恵ちゃんから、電話よ」
1階からお母さんの声がして、あたしは階段をトントントン……と音を立てながら降りていく。
電話の置いてある場所は、階段下のすぐ横。
「はい、もしもし」
「由菜。遅くに、ごめんね」
あたしが電話に出ると、受話器の向こう側から聞こえてくる声は、まぎれもなく美恵だった。
「なに、どうしたの?」
あたしの問い掛けに、美恵が怒る。
「ちょっと、由菜ッ! その言い方はないんじゃないッ!! 手紙のことが気になって電話したのよ。どうしたのかなって、心配してたんだから------」
「そうなんだ……。ありがとう」
「当たり前でしょ。あんな深刻な顔見ちゃって、心配するなって方が無理よ。------それで、手紙の主は現れたの?」
「う、うん。あたし、美恵って凄いと思ったよ。あのね。手紙くれたのは、男だったの。美恵の言ったとおりだったんだ」
「やっぱり、そうか。……ってことは、告白されたんでしょ」
美恵ってば、勝手に決めつけちゃってる。
でも、まあ、言ってることは本当だから、いいんだけどね。
「うん」
そう答えるあたしに、待ってましたとばかりに、美恵が少し高めの声で言った。
「やっぱりーっ♪ そうだと思ったのよねぇ」
(やめて欲しい……)
受話器の向こう側、美恵の喜ぶ顔が浮かぶ。
美恵があたしに望むこと、なんとなくわかるの。
早く、新しい恋が出来るようにと願ってる。
あたしに、新しい彼氏が出来たら……多分、美恵が、1番最初に喜んでくれるんだろうなぁ。
「それで?」
「断ったよ。……でもね。友達ならいいだろ……って言うから、あたしOKしちゃった。ねぇ、美恵。友達なら……いいよね?」
「やだ。いいよねって、由菜が決めることでしょ」
「そっ……そうだよね」
あたしったら、なに聞いてんだろう。
「………………」
あたしは受話器を持ったまま無言になってしまう。
「ねぇ、由菜。大丈夫だよ、それでいいんだよ」
あたしに、美恵が優しく答えてくれた。
そして------。
『男友達かぁ。良かったね、由菜』
美恵が、そう、呟くように言った。
その言葉の意味を。
この時。
あたしは、まだ知らない------…。
『じゃあ! 明日、彼に会えるのかしら? 何だか楽しみだなっ♪』
美恵の嬉しそうな声の後。
「うん! また明日ね」
あたしは電話を切った。
≪続く≫
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大好きだった涼の笑顔が、今も変わらず輝いている。
そんな由菜の前に現れた、新田卓哉。彼の声は、亡き恋人の涼に似てた……!
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その日の夜------…。
「あたしね。今日、告白されちゃったんだよ。確か、新田卓哉って言ったかな。そいつの声って、涼にそっくりなんだ。付き合ってくれないか……って言われた時、まるで涼に言われてるみたいだったよ。だけど、違うんだよね。うん、わかってる。わかってるから、ちゃんと断ったよ。あたしには、涼がいるから……。でもね。そいつったら、友達ならいいだろ……なんて言ってくるから、あたし、OKしちゃったよ。……友達ならいいよね。友達なら……いいでしょ? ねぇ、涼……」
(だって涼はあたしに、語り掛けてはくれないもの……)
あたしは自分の部屋で、そう涼の写真に語り掛ける。
いつからだろう……。
こうして涼の写真に語り掛けるようになったのは……。
そう、涼が亡くなって間もない頃……。
悲しくて悲しくて、気がおかしくなりそうな夜。
会いたくて会いたくて……。
あたしは、アルバムの扉を開いてた……。
涼の写真を1枚ずつ見ながら、色んなことを思い出しては泣き、ふと気付くと、あたしは写真の中の涼に語り掛けるようになっていた。
その頃から、まるで生きている涼と話してるかのように……。
自分の心を閉ざしてしまうとわかりながらも、あたしは、そうすることで安心出来た。
涼が傍に居る様な気がして……。
だからなの。
1年が経った今でさえ、涼の写真に語り掛ける日々……。
それも決まって、午後9時30分。
どうしてかというと------。
それは……涼が生きてた頃。
毎晩、この時間になると、涼から電話があったからなの。
------ナイト・コール。
あたしは、とても楽しみに待っていた。
時間より、少しでも早く電話のベルが鳴ると凄く嬉しくて、遅いと不安で落ち着かなかったこと、今でも覚えてる。
電話の置いてある場所の前を、行ったり来たりしてたなぁ……。
でも、もう、そんなことする必要なくなってしまった。
トゥルルルル♪ トゥルルルル♪
そう、この時間、こんなふうに電話が掛かってくる事なんて、なくなってしまったのだから------…。
トゥルルルル♪ トゥルルルル♪
こんな……ふう……に……。
------え!?
本当に電話のベルが鳴っている!!
こんな時間に誰かな……?
「由菜------っ! 美恵ちゃんから、電話よ」
1階からお母さんの声がして、あたしは階段をトントントン……と音を立てながら降りていく。
電話の置いてある場所は、階段下のすぐ横。
「はい、もしもし」
「由菜。遅くに、ごめんね」
あたしが電話に出ると、受話器の向こう側から聞こえてくる声は、まぎれもなく美恵だった。
「なに、どうしたの?」
あたしの問い掛けに、美恵が怒る。
「ちょっと、由菜ッ! その言い方はないんじゃないッ!! 手紙のことが気になって電話したのよ。どうしたのかなって、心配してたんだから------」
「そうなんだ……。ありがとう」
「当たり前でしょ。あんな深刻な顔見ちゃって、心配するなって方が無理よ。------それで、手紙の主は現れたの?」
「う、うん。あたし、美恵って凄いと思ったよ。あのね。手紙くれたのは、男だったの。美恵の言ったとおりだったんだ」
「やっぱり、そうか。……ってことは、告白されたんでしょ」
美恵ってば、勝手に決めつけちゃってる。
でも、まあ、言ってることは本当だから、いいんだけどね。
「うん」
そう答えるあたしに、待ってましたとばかりに、美恵が少し高めの声で言った。
「やっぱりーっ♪ そうだと思ったのよねぇ」
(やめて欲しい……)
受話器の向こう側、美恵の喜ぶ顔が浮かぶ。
美恵があたしに望むこと、なんとなくわかるの。
早く、新しい恋が出来るようにと願ってる。
あたしに、新しい彼氏が出来たら……多分、美恵が、1番最初に喜んでくれるんだろうなぁ。
「それで?」
「断ったよ。……でもね。友達ならいいだろ……って言うから、あたしOKしちゃった。ねぇ、美恵。友達なら……いいよね?」
「やだ。いいよねって、由菜が決めることでしょ」
「そっ……そうだよね」
あたしったら、なに聞いてんだろう。
「………………」
あたしは受話器を持ったまま無言になってしまう。
「ねぇ、由菜。大丈夫だよ、それでいいんだよ」
あたしに、美恵が優しく答えてくれた。
そして------。
『男友達かぁ。良かったね、由菜』
美恵が、そう、呟くように言った。
その言葉の意味を。
この時。
あたしは、まだ知らない------…。
『じゃあ! 明日、彼に会えるのかしら? 何だか楽しみだなっ♪』
美恵の嬉しそうな声の後。
「うん! また明日ね」
あたしは電話を切った。
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【小説】扉を開けて(4)
2008-06-27 (Fri)
扉を開けて(4) 作/RENJI恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。ある日、由菜を呼び出す手紙が……1通。放課後、待ち合わせ場所で待つ由菜の後ろから、懐かしい声が……。...
扉を開けて(4) 作/RENJI
恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。
ある日、由菜を呼び出す手紙が……1通。
放課後、待ち合わせ場所で待つ由菜の後ろから、懐かしい声が……。
続きを読む……
放課後の教室---------…。
色々考えた末に、あたしは結局、手紙をくれた相手と会うことにした。
この手紙をくれたのが誰なのか、とても気になるし。
あたしを直接呼び出してまでの≪大事な話≫って、何の用……?
少し不安気味のあたし顔を見て、美恵が心配そうに話し掛けてくれた。
「由菜……あたしも一緒に行ってあげようか?」
その言葉が嬉しくて……。
でも『うん』と言えなくて……。
「ありがとう。でも大丈夫だから……」
あたしは、そう言って断ってしまった。
「そ、そう……。じゃあ、先に帰るね」
「うん」
ニコッと微笑んでみたものの……。
美恵の帰る後ろ姿を見ながら、あたしは心の中で『待って!』と呼び止める。
(聞こえる筈もないのに、ね)
馬鹿だな、あたしって……。
あたしの通っている高校には、ずっと昔から校庭の片隅に、1本だけ植えてある桜の木があるの。
樹齢・百年は軽く越えていると言われている、とても大きな桜の木の下------…。
『この木は……幾年の季節を乗り越え。
沢山の時間(とき)の流れと共に……、
幾人もの『出会い』と『別れ』を見てきたんだろうなぁ……』
あたしは呼び出された場所に、少し早く来てしまい。
大きな桜の木を見上げると、そんなことを思いながら待っていた。
そうすることで……。
自分の不安な気持ちを消し去ろうとしていた。
そう無意識に……。
「それにしても、遅いなぁ……」
時間は過ぎ------。
一度、気にしてしまったら……。
名前もわからない相手を待つことが、凄く不安で落ち着かないことに気付いてしまった。
「はあ------っ」
あたしは重い溜め息をつく。
ドクン、ドクン、ドクン……。
不安で鼓動が高鳴る。
(帰ろう………)
やっぱり会いたくない。
帰ってもいいよね。
呼び出しといて、遅れる方が悪いんだから……。
あたしは校門に向かって、ゆっくりと歩き出す。
1歩、2歩……、ちょうど3歩目の足を出そうとした時------…。
「ごめん! 遅くなって……」
あたしの後ろから、懐かしい声が聞こえて……、立ち止まる。
少し低めの優しい声が、あたしの不安な気持ちを一瞬にして消してくれた。
忘れない……。
どんなに時間(とき)が経っても、忘れない。
この声は------涼!
あたし……夢見てるみたい。
もういない筈の『涼』の声が聞こえるなんて……。
ううん。
……夢じゃない。
だって、確かにあたしの後ろから、涼の声が聞こえたもの。
(涼………)
あたしは微笑みながら、ゆっくりと振り向く。
(……違う、涼じゃない……)
あたしの前に立っている男の人は、全然別人の顔をしていた。
……涼じゃない。
そうわかった、とたん。
あたしの顔から、笑顔か消えた。
そうだった……。
(涼は、もう……いない)
あたし、どうかしてる。
涼は、もう生きていないのに、声が聞こえるなんて……。
錯覚------…。
そう……錯覚だったの、ね。
「本当に、ごめん! 俺から呼び出しといて、遅れるなんて……」
---------!?
あたしは、彼の顔をじっと見てしまう。
錯覚なんかじゃなかった!
この人の声が、涼の声にそっくりなの。
驚くほど------似てる!!
「手紙くれたの……あなた?」
あたしは、そう聞きながら彼を指差した。
「ああ。俺だよ」
美恵の言ってたことが、見事に的中した。
---------------ん?
でも手紙渡してくれた子は、A組の女の子に頼まれたって……。
それって、どういうこと……?
「でも、女の子からって……」
あたしが聞こうとしたら------。
「俺が頼んだんだ。あんた、手紙の相手が男からだとわかったら、会ってくれそうないからさ。姉貴から、猫の便せんまで貰ったりして……」
彼が照れくさそうに、そう言った。
うん。
確かに男からの手紙だとわかってたら、あたし、絶対に会わなかった。
「あ☆ 大事な話って?」
あたしは、突然思い出したかのように言う。
「そう、大事な話。もう想像つくと思うけど……」
(えっ、何が……?)
あたしは意味がわからず、首を傾げる。
「……俺、君に一目惚れしたからさ。良かったら、付き合ってくれないかな?」
彼が真顔で言った。
(告白されちゃった……)
でも、あたし驚かなかった。
いきなりだったけど、少しも驚かず、冷静に受け止めると、頭を下げながら。
「ごめんなさい」
即答で、そう言い返した。
(まさか、告白されるなんて思ってもみなかったなぁ……)
あたし、駄目なの……。
どうしても、涼を忘れることなんて出来ない。
涼以外の人と付き合うなんて、考えられないもの……。
「今、付き合ってる奴……いるんだ?」
帰ろうとするあたしの後ろから、少し大きめの声で彼が問い掛けた。
「うん!」
あたしは立ち止まり、振り返ると、そう笑顔で答えた。
だけど……。
作り笑顔は、すぐに消えてしまう。
本当は嘘なのに……。
(愛した人は……もう、いない)
そう思うと、あたし胸が苦しくなる。
「……そうか」
彼が溜め息≪ひとつ≫ついて……。
「友達ならいいだろ? ただの友達なら……」
彼が優しい声で、そう言った。
(友達? ただの友達なら……)
「……うん」
あたし……気付いたら、そう返事してた。
友達ならいいのかなって、一瞬……そう思ったから。
彼の声が、涼に似てるから------?
------わからない。
そんなこと、わからない。
……違う……。
そう、違う……。
どんなに声が似ていても、涼じゃない。
涼は、いない。
ただ、それだけは……わかってる。
「それじゃ、自己紹介。俺、新田卓哉。18歳。1ヶ月ほど前に≪3年A組≫に転校してきて、一目惚れした子に、たった今、告白した。まっ、そんなことくらいかな。断られたけど……」
そう言って、彼が……。
ううん。
新田君が、ニコッと笑ってくれた。
「あたし……日高」
「日高由菜、18歳。3年D組。それくらいは、知ってるよ」
新田君が、そう言って。
あたしの顔を見ると、意味有り気に微笑んで。
「友達から……ってことで、よろしくなッ!」
そう言った。
えっ。
友達から……って。
それって、どういうことぉ……!?
≪続く≫
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ある日、由菜を呼び出す手紙が……1通。
放課後、待ち合わせ場所で待つ由菜の後ろから、懐かしい声が……。
続きを読む……
放課後の教室---------…。
色々考えた末に、あたしは結局、手紙をくれた相手と会うことにした。
この手紙をくれたのが誰なのか、とても気になるし。
あたしを直接呼び出してまでの≪大事な話≫って、何の用……?
少し不安気味のあたし顔を見て、美恵が心配そうに話し掛けてくれた。
「由菜……あたしも一緒に行ってあげようか?」
その言葉が嬉しくて……。
でも『うん』と言えなくて……。
「ありがとう。でも大丈夫だから……」
あたしは、そう言って断ってしまった。
「そ、そう……。じゃあ、先に帰るね」
「うん」
ニコッと微笑んでみたものの……。
美恵の帰る後ろ姿を見ながら、あたしは心の中で『待って!』と呼び止める。
(聞こえる筈もないのに、ね)
馬鹿だな、あたしって……。
あたしの通っている高校には、ずっと昔から校庭の片隅に、1本だけ植えてある桜の木があるの。
樹齢・百年は軽く越えていると言われている、とても大きな桜の木の下------…。
『この木は……幾年の季節を乗り越え。
沢山の時間(とき)の流れと共に……、
幾人もの『出会い』と『別れ』を見てきたんだろうなぁ……』
あたしは呼び出された場所に、少し早く来てしまい。
大きな桜の木を見上げると、そんなことを思いながら待っていた。
そうすることで……。
自分の不安な気持ちを消し去ろうとしていた。
そう無意識に……。
「それにしても、遅いなぁ……」
時間は過ぎ------。
一度、気にしてしまったら……。
名前もわからない相手を待つことが、凄く不安で落ち着かないことに気付いてしまった。
「はあ------っ」
あたしは重い溜め息をつく。
ドクン、ドクン、ドクン……。
不安で鼓動が高鳴る。
(帰ろう………)
やっぱり会いたくない。
帰ってもいいよね。
呼び出しといて、遅れる方が悪いんだから……。
あたしは校門に向かって、ゆっくりと歩き出す。
1歩、2歩……、ちょうど3歩目の足を出そうとした時------…。
「ごめん! 遅くなって……」
あたしの後ろから、懐かしい声が聞こえて……、立ち止まる。
少し低めの優しい声が、あたしの不安な気持ちを一瞬にして消してくれた。
忘れない……。
どんなに時間(とき)が経っても、忘れない。
この声は------涼!
あたし……夢見てるみたい。
もういない筈の『涼』の声が聞こえるなんて……。
ううん。
……夢じゃない。
だって、確かにあたしの後ろから、涼の声が聞こえたもの。
(涼………)
あたしは微笑みながら、ゆっくりと振り向く。
(……違う、涼じゃない……)
あたしの前に立っている男の人は、全然別人の顔をしていた。
……涼じゃない。
そうわかった、とたん。
あたしの顔から、笑顔か消えた。
そうだった……。
(涼は、もう……いない)
あたし、どうかしてる。
涼は、もう生きていないのに、声が聞こえるなんて……。
錯覚------…。
そう……錯覚だったの、ね。
「本当に、ごめん! 俺から呼び出しといて、遅れるなんて……」
---------!?
あたしは、彼の顔をじっと見てしまう。
錯覚なんかじゃなかった!
この人の声が、涼の声にそっくりなの。
驚くほど------似てる!!
「手紙くれたの……あなた?」
あたしは、そう聞きながら彼を指差した。
「ああ。俺だよ」
美恵の言ってたことが、見事に的中した。
---------------ん?
でも手紙渡してくれた子は、A組の女の子に頼まれたって……。
それって、どういうこと……?
「でも、女の子からって……」
あたしが聞こうとしたら------。
「俺が頼んだんだ。あんた、手紙の相手が男からだとわかったら、会ってくれそうないからさ。姉貴から、猫の便せんまで貰ったりして……」
彼が照れくさそうに、そう言った。
うん。
確かに男からの手紙だとわかってたら、あたし、絶対に会わなかった。
「あ☆ 大事な話って?」
あたしは、突然思い出したかのように言う。
「そう、大事な話。もう想像つくと思うけど……」
(えっ、何が……?)
あたしは意味がわからず、首を傾げる。
「……俺、君に一目惚れしたからさ。良かったら、付き合ってくれないかな?」
彼が真顔で言った。
(告白されちゃった……)
でも、あたし驚かなかった。
いきなりだったけど、少しも驚かず、冷静に受け止めると、頭を下げながら。
「ごめんなさい」
即答で、そう言い返した。
(まさか、告白されるなんて思ってもみなかったなぁ……)
あたし、駄目なの……。
どうしても、涼を忘れることなんて出来ない。
涼以外の人と付き合うなんて、考えられないもの……。
「今、付き合ってる奴……いるんだ?」
帰ろうとするあたしの後ろから、少し大きめの声で彼が問い掛けた。
「うん!」
あたしは立ち止まり、振り返ると、そう笑顔で答えた。
だけど……。
作り笑顔は、すぐに消えてしまう。
本当は嘘なのに……。
(愛した人は……もう、いない)
そう思うと、あたし胸が苦しくなる。
「……そうか」
彼が溜め息≪ひとつ≫ついて……。
「友達ならいいだろ? ただの友達なら……」
彼が優しい声で、そう言った。
(友達? ただの友達なら……)
「……うん」
あたし……気付いたら、そう返事してた。
友達ならいいのかなって、一瞬……そう思ったから。
彼の声が、涼に似てるから------?
------わからない。
そんなこと、わからない。
……違う……。
そう、違う……。
どんなに声が似ていても、涼じゃない。
涼は、いない。
ただ、それだけは……わかってる。
「それじゃ、自己紹介。俺、新田卓哉。18歳。1ヶ月ほど前に≪3年A組≫に転校してきて、一目惚れした子に、たった今、告白した。まっ、そんなことくらいかな。断られたけど……」
そう言って、彼が……。
ううん。
新田君が、ニコッと笑ってくれた。
「あたし……日高」
「日高由菜、18歳。3年D組。それくらいは、知ってるよ」
新田君が、そう言って。
あたしの顔を見ると、意味有り気に微笑んで。
「友達から……ってことで、よろしくなッ!」
そう言った。
えっ。
友達から……って。
それって、どういうことぉ……!?
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【小説】扉を開けて(3)
2008-06-22 (Sun)
扉を開けて(3) 作/RENJI恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。お昼休みも、あと数分で終わろうとしている時、由菜の肩をポンポンと叩く子が……!...
扉を開けて(3) 作/RENJI
恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。
お昼休みも、あと数分で終わろうとしている時、由菜の肩をポンポンと叩く子が……!
続きを読む……
あたしにとって……。
唯一の安らぎ、お昼休みが、あと5分で終わろうとしてる時------…。
「やだぁ! 5時間目の授業って、英語だよね?」
「そうだよ」
「……ごめん。教科書借りに行くの、付き合ってぇ~」
そんな声が、教室の後ろの方から聞こえてきて、あたしと美恵は目を合わせると、にっこり微笑んだ。
------何故なら。
あたし達も、たまに同じことやるのよね。
きっと皆も、一度はあるんじゃないかしら?
教科書忘れて、他のクラスの子に借りに行く。
なーんてこと。
だから≪同じことしてるなぁ♪≫って、思ったりしてたの。
そしたら、突然!
ポンポンと、あたしの肩を叩いて、同じクラスの女の子が手紙を差し出した。
「はい、コレ。A組の女の子から頼まれたよ」
「えっ? あたしに……!?」
自分を指差して確かめる。
「うん、そうよ。日高さんにって……」
「あ、ありがと……」
あたしは手紙を受け取った。
(A組の誰かなぁ……?)
手紙の封筒には名前一つ書かれていない。
あたしは首を傾げながら封筒を開けると、中から手紙を取り出した。
二つ折りになっている手紙を広げてみると、あたし好みの、とても可愛い≪子猫≫の絵柄の便せんに……。
日高 由菜 様
放課後。
桜の木の下で待っています。
大事な話があるので、絶対に来て下さい。
そう書いてある。
この手紙を誰がくれたのか、とても気になるけど……。
それでも……、あたしは女の子がくれた手紙ということで、なんとなく安心してた。
なのに、美恵が……横から手紙を覗き込み。
「この手紙……女子からじゃないと思うなぁ」
小声で、そんなこと言うの。
「ええ------ッ!?」
あたしは、悲鳴に近い声を上げた。
ちょ、ちょっと待ってよ!
じゃあ。
「まっ、まさか、男からの手紙だなんて言うつもりッ!?」
「うーん。多分ね」
美恵が真顔で答えた。
「どっ、どうして、そう思うのよォ!?」
「どうして……って聞かれても、あたしにもわからない。わからないけど、そんな気がするのっ!」
美恵の言葉と同時に、始業のチャイムが鳴り、5時間目の授業が始まるけど……。
あたしの頭の中、授業なんかどうでもよくて、手紙のことだけで一杯になってしまった。
まったく、美恵が変なこと言い出すから……。
うーん……。
手紙をくれた子に、会った方がいいのかなぁ……。
そうよね、大事な話がある……って書いてあるし。
だけど同級生でも、あたしの知らない子かも……。
しかも、もし男だったら、会いたくないなぁ------…。
美恵の言ったこと、まるっきり信じちゃう訳じゃないけど、さ。
当たるのよね~。
美恵の言ったことって……。
だから手紙をくれたのは男なんじゃないかって、思い始めたら……。
気になって、気になって……。
気が付くと------…。
終業のチャイムが鳴り、結局、少しも授業に身が入らないまま終わってしまった。
≪続く≫
携帯待ち受け記事をご覧の方は、「拍手のお礼」ページにて画像が表示されますので、下記の拍手ボタンより「ダウンロード」して下さい。それ以外の記事からは、普通の「拍手」になります。
お昼休みも、あと数分で終わろうとしている時、由菜の肩をポンポンと叩く子が……!
続きを読む……
あたしにとって……。
唯一の安らぎ、お昼休みが、あと5分で終わろうとしてる時------…。
「やだぁ! 5時間目の授業って、英語だよね?」
「そうだよ」
「……ごめん。教科書借りに行くの、付き合ってぇ~」
そんな声が、教室の後ろの方から聞こえてきて、あたしと美恵は目を合わせると、にっこり微笑んだ。
------何故なら。
あたし達も、たまに同じことやるのよね。
きっと皆も、一度はあるんじゃないかしら?
教科書忘れて、他のクラスの子に借りに行く。
なーんてこと。
だから≪同じことしてるなぁ♪≫って、思ったりしてたの。
そしたら、突然!
ポンポンと、あたしの肩を叩いて、同じクラスの女の子が手紙を差し出した。
「はい、コレ。A組の女の子から頼まれたよ」
「えっ? あたしに……!?」
自分を指差して確かめる。
「うん、そうよ。日高さんにって……」
「あ、ありがと……」
あたしは手紙を受け取った。
(A組の誰かなぁ……?)
手紙の封筒には名前一つ書かれていない。
あたしは首を傾げながら封筒を開けると、中から手紙を取り出した。
二つ折りになっている手紙を広げてみると、あたし好みの、とても可愛い≪子猫≫の絵柄の便せんに……。
日高 由菜 様
放課後。
桜の木の下で待っています。
大事な話があるので、絶対に来て下さい。
そう書いてある。
この手紙を誰がくれたのか、とても気になるけど……。
それでも……、あたしは女の子がくれた手紙ということで、なんとなく安心してた。
なのに、美恵が……横から手紙を覗き込み。
「この手紙……女子からじゃないと思うなぁ」
小声で、そんなこと言うの。
「ええ------ッ!?」
あたしは、悲鳴に近い声を上げた。
ちょ、ちょっと待ってよ!
じゃあ。
「まっ、まさか、男からの手紙だなんて言うつもりッ!?」
「うーん。多分ね」
美恵が真顔で答えた。
「どっ、どうして、そう思うのよォ!?」
「どうして……って聞かれても、あたしにもわからない。わからないけど、そんな気がするのっ!」
美恵の言葉と同時に、始業のチャイムが鳴り、5時間目の授業が始まるけど……。
あたしの頭の中、授業なんかどうでもよくて、手紙のことだけで一杯になってしまった。
まったく、美恵が変なこと言い出すから……。
うーん……。
手紙をくれた子に、会った方がいいのかなぁ……。
そうよね、大事な話がある……って書いてあるし。
だけど同級生でも、あたしの知らない子かも……。
しかも、もし男だったら、会いたくないなぁ------…。
美恵の言ったこと、まるっきり信じちゃう訳じゃないけど、さ。
当たるのよね~。
美恵の言ったことって……。
だから手紙をくれたのは男なんじゃないかって、思い始めたら……。
気になって、気になって……。
気が付くと------…。
終業のチャイムが鳴り、結局、少しも授業に身が入らないまま終わってしまった。
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