夢幻巣窟 ~むげんそうくつ~

RENJI(レンジ)とJURA(ジュラ)の2人が描いた創作イラストを公開しつつ、小説、ポエム、無料携帯待受け画像、ゲーム日記、観た映画の感想など色々更新しています。

プレミアム バンダイ プレミアム バンダイ プレミアム バンダイ
 

【小説】扉を開けて(7)

扉を開けて(7)     作/RENJI恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。そんな由菜を優しく見守る、親友「美恵」の思いと願い───…。由菜には、届いているのだろうか……。本当の笑顔が見れる日は来るのだろうか……。...

続きを読む

扉を開けて(7)     作/RENJI


恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。
そんな由菜を優しく見守る、親友「美恵」の思いと願い───…。

由菜には、届いているのだろうか……。
本当の笑顔が見れる日は来るのだろうか……。
ReadMore



 美恵より先に教室に着いたあたしは、席に着くなり、重い溜め息を吐く。
(どうして逃げたりしたんだろう……)
 ばかだなぁ……。美恵に誤解されたくなくて、逃げるなんて……。
 余計に誤解されちゃうだけなのに、どうして逃げたりしたの……。
(ねぇ、どうして……?)
 あたしは、そう自分を責めるけど……。
 でもとっさになんて答えればいいのかなんて、わからなかった。
 やっぱり……。
 どう考えたって……。
 あの場は、美恵の前から逃げる事しか出来なかった。
 だけど、どうしたらいい?
 このままじゃ、ずっと誤解されたままになってしまう……。
 ………………。
 そんなこと考えてるあたしの後ろから、美恵が机の横を静かに通り過ぎ、席に着いた。
 美恵の席はあたしの前で、席に着くとゆっくりと振り返った。
「由菜……」
 そう言って、あたしの顔を見ると、美恵は小さく首を横に振って、何も言わず前を向いた。
(何も聞かずにいてくれるの……?)
 ねぇ、どうして……?
 いつもの美恵なら、きっと……。ううん。
 絶対に聞くはずなのに、何も聞かない。
『ねぇ、どうしてなの……? どうして、何も聞かないの?』
 あたしは心の中で、そう美恵の背中に向かって問い掛けるけど……。
 あたしの気持ちを一番に考えてくれる美恵なら、聞けるはずが……ないよね。
 新田君の声が『涼』に似てるから……。
 新田君と『涼』をダブらせているんじゃないか、なんて聞けないよね。
 だけど……なんて言えば誤解は解ける?
 そんなのわからない……。
(でも誤解されたままなんて、嫌だよ!)
 そんなこと思いながら授業を受けるけど、ちっとも身に入らないくて……。
 いつもなら休み時間に何も喋らない事なんてないのに、何も話せないまま---------…。
 あたしと美恵の間に、気まずい空気が流れる……。


 そして、お昼休み---------…。
 あたしは、やっとの思いで声をかけた。
「みっ……美恵」
 あたしの微かな声に、美恵が振り向く。
「やっ、やだなぁ……。どうしたのよ、美恵。朝から何も喋らなくなっちゃって……。あたしまで話しかけられなく、なっちゃうでしょ」
 あたしのぎこちない喋り方に美恵は何も言わず、あたしの目をじっと見てる。
 ------少しの沈黙の後。
「……朝のこと気にしてるなら、大丈夫だよ。あの時は、とっさに逃げちゃったけど……。美恵に誤解されたくなくて、何て言ったらいいのか、わからなかったの。でもね、美恵が思っているようなことないよ。確かに、新田君の声は『涼』に似てるけど、新田君と『涼』は違う。大丈夫だよ。あたしわかってるから、もう涼はいないって……。ね、心配しないで……」
 そうあたしが言うと、美恵の見つめる目が優しくなった。
「ごめんね……。あたしの思い過ごしだった、みたいね」
「うん。わかってる。新田君と涼をダブらせているんじゃないかって、そう思ったんでしょ?」
 あたしが、そう言うと美恵がゆっくりと頷き、話し出す。
「由菜に≪男友達が出来た≫って聞いた時は、自分のことのように嬉しくて、喜んだけど……。今朝、新田君の声を聞いた時……、喜ぶんじゃなかったって思った。由菜は、まだ涼の影を見続けてるって……」
(………………)
 美恵の誤解は、やっぱり、あたしの思った通りだった。
 だけど、美恵が珍しく自分の思ってるいことを、素直に口にしてくれたから、あたしはとても嬉しかった。
 いつもの美恵なら、涼のことをこんなふうに言わない。
 なるべくなら、あたしの前で『涼』のことを口にしないようにしてくれている。
 あたしが、1日でも早く、≪思い出から≫さよなら出来るように……。
「大丈夫だよ。あたしは、いつまでも思い出を引きずったりなんか、しないんだからっ!」
 あたしは美恵に心配させないようにと、そう言いながら、とびきりの笑顔見せたけど……。
 どこか、ぎこちない……。
 自分に嘘ついてるから------…。
 忘れられるはずないのに……。
 あたしの心の中は、いつだって『涼』との思い出で一杯------…。
 楽しかった思い出も……。
 今は胸が苦しくなるだけなのに、忘れられなくて、思い出を引きずったまま------…。
 あたしの心の中は、涼が亡くなった。

 ------あの日。
 止まってしまった……。
 もう、ずっと進めないまま------…。
 本当は心のずっと……奥、微かな声で叫んでる。
 自分自身に問い掛けてる。

    ねぇ、どうしたらいい……?
    どうしたら、この苦しみから解放されるの……?
    ねぇ、教えて……教えてよ。
    どうすれば、楽になれるの……?

 答えなんか『ある』はずないのに……。
 美恵に聞いてみたら、少しは楽になれるんじゃないか……って、思ってみたりもする。
 そんなこと聞けるはずもないのに、ね。
 だから、今は笑うことしか出来ないの。
 そう、笑うことしか……。

「由菜も……早く新しい恋を見つけなくっちゃ! ねっ♪」
 美恵があたしの肩をポンと叩いた。
 だけど……。
『そうだね』って、言えなかった。
 自分に嘘つけなくて……。
 あたしは何も言わず、コクリ頷いた。

 ---------この時。

 美恵の顔が、一瞬……厳しくなり。


    ねぇ、由菜。信じていいの?
    新田君と涼をダブらせていないと……。
    涼の思い出は……由菜を悲しませる影は消えたの?
    由菜の言葉、信じたいけど……。
    まだ由菜の笑顔、本物じゃないよ。
    ねぇ、由菜……。
    思い出はね、悲しむばかりじゃないんだよ。
    いつか素敵な思い出に変わる日が来ること、早く……気付いて欲しい。
    気付いた時が、変わる日だよ。
    きっと……。
    その日が来ること、天国から『涼』も願っているよ。


 そう美恵が心の中で、あたしに語り掛けていることなんて、知るよしもなく。
 今は悲しいだけの思い出が……。
 いつの日か素敵な思い出に変わるのは……。

 これから、ずっと先のことだった---------…。


≪続く≫

Return


携帯待ち受け記事をご覧の方は、「拍手のお礼」ページにて画像が表示されますので、下記の拍手ボタンより「ダウンロード」して下さい。それ以外の記事からは、普通の「拍手」になります。

Theme : 自作小説 * Genre : 小説・文学 * Category : 創作小説/連載

Comment-open▼ * Comment : (0)

【小説】扉を開けて(6)

扉を開けて(6)     作/RENJI恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。大好きだった涼の笑顔が、今も変わらず輝いている。なのに、どうして……?新田君のことが、頭から離れないの……。...

続きを読む

扉を開けて(6)     作/RENJI


恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。
大好きだった涼の笑顔が、今も変わらず輝いている。
なのに、どうして……?
新田君のことが、頭から離れないの……。
ReadMore



 翌日------…。

「由菜------っ! 早くしないと、学校に遅れるわよ」

 お母さんの呼ぶ声が一階から聞こえて、あたしは着替え終わった制服の仕上げに、リボンを襟元にかける。そして鏡の前に立つと、制服の乱れを直しながら、髪の毛が跳ねていないか、一通りチェックする。

女の子ならこんなこと当たり前で、チェックし終わると『行ってきまーす』なんて言いながら、学校に向かってた。

 ------あの頃。
 毎日、朝が来るのが、ただ待ち遠しかった……。
 でも………今は違う。
 朝なんて来なければいいと、夜が来るたびに思う。
 このまま眠り続けてしまえば、どんなに楽だろう……。
 何度となく思い、泣いてばかりいる。
 時は流れ、涙の数は減っても、その思いだけは変わらない……。
 朝は、嫌だ……。
 どんなに楽しい夢を見ても、目覚めれば覚めてしまい、朝が来るたびに思い知らされる。
 大好きだった人は、もういない……。


「おはよう。今日も、いい天気だよ」
 机の上に置いてある写真立ての中、大好きだった涼の笑顔が、今も変わらず輝いている。
 もう1年が過ぎてしまった……。
 こうして毎朝。
 写真立ての中の涼に、語り掛ける日々……。
 学校に行く前の、朝の日課になっている。

「由菜------っ! 遅くなるわよ!」
(わかってるってばぁ……)
 ままの呼ぶ声に、そう思いながら部屋を出る。
 階段を下りる足が、何故か悲しげで……。
「行ってきます!」
 その声さえも元気がないことに、あたしは最近になってから気付いた。
 でも、そう言って、玄関のドアを閉めた後……。
 家の中では笑うことの少ないあたしが、少しでも多く笑えること、自分自身に感謝してる。
『笑顔が似合うよ』
 そう言ってくれた涼の為にも、とびきりの笑顔見せなくちゃ……。
 そんなこと思いながら、毎日過ごしてる。

「はあーっ」
 登校途中、溜め息を吐く。
 昨日、あたしに告白した新田卓哉。
 あいつに会いたくないと思いながら、心のどこか、会いたいという気持ちがある。
 わかってる、わかってるの。
 新田君は、涼じゃない……。
 わかってるけど、友達ならいいよね。
 そう自分の心の中、言い聞かせながら、とことこ歩くあたしの後ろから------…。
「由菜---------っ! 由菜ってばぁ」
 そう呼び止める美恵の声に、あたしが振り返る。
「おはよっ! なに、シケた顔してんのよ?」
 美恵が小走りで近付いて来て、あたしの肩をポンと叩くと、そう言って、あたしの顔を見る。
「えっ……。シケた顔なんて……」
「してるよ。いつもの由菜じゃないわね。どこか元気ないもの……」
「そんなこと……ないよ」
「そうかなぁ……。昨日、告白されたことが関係あるんじゃないの?」
「嫌だなぁ。そんなことないよ。あたしは、元気! いつもと変わんないってばっ!」
 そう言ったものの、自分でもわかってる。
 確かに美恵が言った通り、新田君に関係があるもの。
 だけど、それは告白されたとかじゃなくて、声が……似てるから、つらい……。
 大好きだった涼の声に似てるから、辛くて、苦しい……。
 もう涼はいないのに、わかってるのに……。
 昨日、新田君の声を聞いた時、まるで……そこに涼がいるみたいで……。
 でも違くて、悲しくて……。
 胸の奥、張り裂けそうで、辛かった……。
 涼に会いたくて……、会えなくて……。
 だからこそ、新田君の声を聞いた時、胸が締め付けられそうな、心のずっと……奥、自分でもわからない程の小さな安心感があった。
「そう。元気なら、いいのよ」
 そう言って、美恵が微笑むけど……。
 きっと美恵はあたしが嘘付いてることぐらい、わかっていると思う。
「ところで、由菜」
 美恵が、あたしを見上げる。
 あたしは美恵の言葉としぐさで、珍しく考えていることがわかった。
(新田君のこと、聞こうとしてる)
「ねぇ、美恵は知ってた? 1ヵ月くらい前に転校して来た子のこと……」
 だからこそ、逆に聞いてみたの。
 何故なら、情報の早い美恵からも『転校生が来た』なんて、そんな話し聞いた覚えがないからなの。
 だから美恵でも、知らないことはあるんだなーってね。
 でもそれは、あたしの思い過ごしだった。
「知ってるよ。A組に転校して来た子でしょ。女の子達がカッコイイとか言っちゃって、大騒ぎしてたじゃない。うーんと。確か、新田君とか言ったかな」
「……ふーん。そうなんだ!!」
 新田君のこと知らなかったのは、美恵じゃなくて、あたしの方だった。
 ううん。知らないのは……。
 同級生の中で、あたしだけなんてこと、あるかも知れない……。
「やだぁ! あんなに騒いでたのに知らなかったの!?」
「うっ、うん……」
「あれっ? 確か、由菜に話したよ。どんな子か、見に行ってみようか……って」
「そっ、そうだったっけ……!?」
 そんなこと初めて聞いて、驚いてるあたしの顔を見ながら、クスッと美恵が笑った。
「まいったなぁ。いくら男に興味ないとは言っても、少しくらい関心持ってもいいと思うよ」
「う、うん。……そうだね」
 あたしは苦笑いしながら、そう答えた。
 だけど、こればかりは、しょうがないのよね。
 もう恋はしないと決めた日から、あたしの頭の中、涼のことしかなくて、涼以外考えられなくて……。
 他の男の人のことなんて、どんな話でも聞きたくないの。
 だからいつも美恵が話してくれる、男子の話題なんて、いつだって上の空。

 でも新田君のことは、頭から離れなくて……。

 なぜだろう……?
 どうして……?
 きっと涼の声に似てるから、忘れられないんだ。
 こうして、今も、頭から離れない。
(気にしてる……)
「でも珍しいじゃない。由菜が男のこと聞くなんて……。で、その転校生が、どうしたの?」
「……そいつなの。昨日、私を呼び出した奴って……」
 あたしは、昨日のことを詳しく話した。
「そうかぁ。由菜ってば、一目惚れされちゃったんだ。やるじゃん!」
 そう言って、まだ新田君の声を聞いたことのない美恵が、優しく微笑んだ。
 その笑顔の中に隠れた美恵の微かな期待は……、言うまでもなく、すぐに消え去り、不安に変わった。

 キーんコーン・カーンコーン……。

 学校の近くまで来たところで、始業のチャイムが鳴り、あたしと美恵は走り出す。
「やだぁ。遅刻になっちゃうよー」
「由菜。早くいこうッ!」
 2人揃って走り出す。
 
 全速力で走った甲斐があって、あたし達は何とかチャイムが鳴り終るまでに、校門をくぐり抜けた。
「おはよっ、ございっ……ますっ!」
 2人とも息を切らしながら、校門のところに立っている先生方に挨拶をすると、ゆっくりと玄関に向かった。


 下駄箱の前---------…。
「おはよっ、由菜」
 靴を履き替えようとするあたしの後ろから、優しい声がして、振り向いた。
(新田君……!!)
 そこには、壁に寄り掛かりながら、腕組みして立っている新田君がいた。
「遅いな……。もう少し早く来ないと、遅刻だよ」
 新田君が、呟くように言って……。
「少し、待ちくたびれたかな……」
 そう言うと、微かに微笑んだ。
(えっ………?)
『待ちくたびれた』って、誰を待ってたの?
 あっ、あたしぃ……!?
 そっ……そんな訳ないよね。まさか、ね。
「あんただろ。由菜の親友って……。俺、新田卓哉。よろしくッ!」
 新田君が美恵の方にゆっくりと近付いて来て、少し低めの声で、そう言った。
 その瞬間------…。
 一瞬……忘れていた美恵の存在に気付き、あたしはゆっくりと美恵の顔を見た。
 美恵は驚いた顔をして、新田君の顔を呆然と見ていた。
「なっ、何だよぉ!? 俺、そんなに驚かれるようなこと、何もしてないぜっ!!」
 新田君の声に、美恵がハッとして……。
「こ……声が……!!」
 美恵が小声で言うと、突き刺すような悲しい瞳で、あたしを見た。
(誤解してる……)
 新田君の声が『涼』に似てるから------…。
 きっと美恵は、あたしが新田君に『涼』の面影を重ねて見ていると思ってる。
「由菜、あんた……」
 美恵の言葉に、あたしは即答えた。
「ちっ、違う……。違うよ、美恵!」
 あたしは首を大きく横に振って、否定した後------…。
 その場から逃げるように走り去り、1人教室に向かった。
 美恵に思っていること、わかる、わかるけど……。
 でも、でも違う……。
 違うよ、美恵……。
 あたし、新田君と涼をダブらせてなんか……いない。
 ダブらせてなんか……いない、よ。


≪続く≫

Return


携帯待ち受け記事をご覧の方は、「拍手のお礼」ページにて画像が表示されますので、下記の拍手ボタンより「ダウンロード」して下さい。それ以外の記事からは、普通の「拍手」になります。

Theme : 自作連載小説 * Genre : 小説・文学 * Category : 創作小説/連載

Comment-open▼ * Comment : (0)

【小説】扉を開けて(5)

扉を開けて(5)     作/RENJI恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。大好きだった涼の笑顔が、今も変わらず輝いている。そんな由菜の前に現れた、新田卓哉。彼の声は、亡き恋人の涼に似てた……!...

続きを読む

扉を開けて(5)     作/RENJI


恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。
大好きだった涼の笑顔が、今も変わらず輝いている。
そんな由菜の前に現れた、新田卓哉。彼の声は、亡き恋人の涼に似てた……!
ReadMore



 その日の夜------…。

「あたしね。今日、告白されちゃったんだよ。確か、新田卓哉って言ったかな。そいつの声って、涼にそっくりなんだ。付き合ってくれないか……って言われた時、まるで涼に言われてるみたいだったよ。だけど、違うんだよね。うん、わかってる。わかってるから、ちゃんと断ったよ。あたしには、涼がいるから……。でもね。そいつったら、友達ならいいだろ……なんて言ってくるから、あたし、OKしちゃったよ。……友達ならいいよね。友達なら……いいでしょ? ねぇ、涼……」
(だって涼はあたしに、語り掛けてはくれないもの……)
 あたしは自分の部屋で、そう涼の写真に語り掛ける。

 いつからだろう……。
 こうして涼の写真に語り掛けるようになったのは……。

 そう、涼が亡くなって間もない頃……。
 悲しくて悲しくて、気がおかしくなりそうな夜。
 会いたくて会いたくて……。
 あたしは、アルバムの扉を開いてた……。
 涼の写真を1枚ずつ見ながら、色んなことを思い出しては泣き、ふと気付くと、あたしは写真の中の涼に語り掛けるようになっていた。
 その頃から、まるで生きている涼と話してるかのように……。
 自分の心を閉ざしてしまうとわかりながらも、あたしは、そうすることで安心出来た。
 涼が傍に居る様な気がして……。

 だからなの。

 1年が経った今でさえ、涼の写真に語り掛ける日々……。
 それも決まって、午後9時30分。
 どうしてかというと------。
 それは……涼が生きてた頃。
 毎晩、この時間になると、涼から電話があったからなの。
 ------ナイト・コール。
 あたしは、とても楽しみに待っていた。
 時間より、少しでも早く電話のベルが鳴ると凄く嬉しくて、遅いと不安で落ち着かなかったこと、今でも覚えてる。
 電話の置いてある場所の前を、行ったり来たりしてたなぁ……。
 でも、もう、そんなことする必要なくなってしまった。

 トゥルルルル♪ トゥルルルル♪

 そう、この時間、こんなふうに電話が掛かってくる事なんて、なくなってしまったのだから------…。

 トゥルルルル♪ トゥルルルル♪

 こんな……ふう……に……。
 ------え!?
 本当に電話のベルが鳴っている!!
 こんな時間に誰かな……?

「由菜------っ! 美恵ちゃんから、電話よ」
 1階からお母さんの声がして、あたしは階段をトントントン……と音を立てながら降りていく。
 電話の置いてある場所は、階段下のすぐ横。
「はい、もしもし」
「由菜。遅くに、ごめんね」
 あたしが電話に出ると、受話器の向こう側から聞こえてくる声は、まぎれもなく美恵だった。
「なに、どうしたの?」
 あたしの問い掛けに、美恵が怒る。
「ちょっと、由菜ッ! その言い方はないんじゃないッ!! 手紙のことが気になって電話したのよ。どうしたのかなって、心配してたんだから------」
「そうなんだ……。ありがとう」
「当たり前でしょ。あんな深刻な顔見ちゃって、心配するなって方が無理よ。------それで、手紙の主は現れたの?」
「う、うん。あたし、美恵って凄いと思ったよ。あのね。手紙くれたのは、男だったの。美恵の言ったとおりだったんだ」
「やっぱり、そうか。……ってことは、告白されたんでしょ」
 美恵ってば、勝手に決めつけちゃってる。
 でも、まあ、言ってることは本当だから、いいんだけどね。
「うん」
 そう答えるあたしに、待ってましたとばかりに、美恵が少し高めの声で言った。
「やっぱりーっ♪ そうだと思ったのよねぇ」
(やめて欲しい……)
 受話器の向こう側、美恵の喜ぶ顔が浮かぶ。
 美恵があたしに望むこと、なんとなくわかるの。
 早く、新しい恋が出来るようにと願ってる。
 あたしに、新しい彼氏が出来たら……多分、美恵が、1番最初に喜んでくれるんだろうなぁ。
「それで?」
「断ったよ。……でもね。友達ならいいだろ……って言うから、あたしOKしちゃった。ねぇ、美恵。友達なら……いいよね?」
「やだ。いいよねって、由菜が決めることでしょ」
「そっ……そうだよね」
 あたしったら、なに聞いてんだろう。
「………………」
 あたしは受話器を持ったまま無言になってしまう。
「ねぇ、由菜。大丈夫だよ、それでいいんだよ」
 あたしに、美恵が優しく答えてくれた。
 そして------。
『男友達かぁ。良かったね、由菜』
 美恵が、そう、呟くように言った。

 その言葉の意味を。
 この時。
 あたしは、まだ知らない------…。

『じゃあ! 明日、彼に会えるのかしら? 何だか楽しみだなっ♪』
 美恵の嬉しそうな声の後。
「うん! また明日ね」
 あたしは電話を切った。


≪続く≫

Return


携帯待ち受け記事をご覧の方は、「拍手のお礼」ページにて画像が表示されますので、下記の拍手ボタンより「ダウンロード」して下さい。それ以外の記事からは、普通の「拍手」になります。

Theme : 自作連載小説 * Genre : 小説・文学 * Category : 創作小説/連載

Comment-open▼ * Comment : (0)

【小説】扉を開けて(4)

扉を開けて(4)     作/RENJI恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。ある日、由菜を呼び出す手紙が……1通。放課後、待ち合わせ場所で待つ由菜の後ろから、懐かしい声が……。...

続きを読む

扉を開けて(4)     作/RENJI

恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。
ある日、由菜を呼び出す手紙が……1通。
放課後、待ち合わせ場所で待つ由菜の後ろから、懐かしい声が……。
ReadMore



 放課後の教室---------…。
 色々考えた末に、あたしは結局、手紙をくれた相手と会うことにした。
 この手紙をくれたのが誰なのか、とても気になるし。
 あたしを直接呼び出してまでの≪大事な話≫って、何の用……?
 少し不安気味のあたし顔を見て、美恵が心配そうに話し掛けてくれた。
「由菜……あたしも一緒に行ってあげようか?」
 その言葉が嬉しくて……。
 でも『うん』と言えなくて……。
「ありがとう。でも大丈夫だから……」
 あたしは、そう言って断ってしまった。
「そ、そう……。じゃあ、先に帰るね」
「うん」
 ニコッと微笑んでみたものの……。
 美恵の帰る後ろ姿を見ながら、あたしは心の中で『待って!』と呼び止める。
(聞こえる筈もないのに、ね)
 馬鹿だな、あたしって……。


 あたしの通っている高校には、ずっと昔から校庭の片隅に、1本だけ植えてある桜の木があるの。
 樹齢・百年は軽く越えていると言われている、とても大きな桜の木の下------…。

    『この木は……幾年の季節を乗り越え。
     沢山の時間(とき)の流れと共に……、
     幾人もの『出会い』と『別れ』を見てきたんだろうなぁ……』

 あたしは呼び出された場所に、少し早く来てしまい。
 大きな桜の木を見上げると、そんなことを思いながら待っていた。

 そうすることで……。
 自分の不安な気持ちを消し去ろうとしていた。
 そう無意識に……。 

「それにしても、遅いなぁ……」
 時間は過ぎ------。
 一度、気にしてしまったら……。
 名前もわからない相手を待つことが、凄く不安で落ち着かないことに気付いてしまった。
「はあ------っ」
 あたしは重い溜め息をつく。

 ドクン、ドクン、ドクン……。
 不安で鼓動が高鳴る。

(帰ろう………)
 やっぱり会いたくない。
 帰ってもいいよね。
 呼び出しといて、遅れる方が悪いんだから……。
 あたしは校門に向かって、ゆっくりと歩き出す。
 1歩、2歩……、ちょうど3歩目の足を出そうとした時------…。
「ごめん! 遅くなって……」
 あたしの後ろから、懐かしい声が聞こえて……、立ち止まる。
 少し低めの優しい声が、あたしの不安な気持ちを一瞬にして消してくれた。

 忘れない……。

 どんなに時間(とき)が経っても、忘れない。
 この声は------涼!
 あたし……夢見てるみたい。
 もういない筈の『涼』の声が聞こえるなんて……。
 ううん。
 ……夢じゃない。
 だって、確かにあたしの後ろから、涼の声が聞こえたもの。
(涼………)
 あたしは微笑みながら、ゆっくりと振り向く。

(……違う、涼じゃない……)

 あたしの前に立っている男の人は、全然別人の顔をしていた。
 ……涼じゃない。
 そうわかった、とたん。
 あたしの顔から、笑顔か消えた。

 そうだった……。
(涼は、もう……いない)
 あたし、どうかしてる。
 涼は、もう生きていないのに、声が聞こえるなんて……。
 錯覚------…。
 そう……錯覚だったの、ね。
「本当に、ごめん! 俺から呼び出しといて、遅れるなんて……」
 ---------!?
 あたしは、彼の顔をじっと見てしまう。
 錯覚なんかじゃなかった!
 この人の声が、涼の声にそっくりなの。
 驚くほど------似てる!!
「手紙くれたの……あなた?」
 あたしは、そう聞きながら彼を指差した。
「ああ。俺だよ」
 美恵の言ってたことが、見事に的中した。

 ---------------ん?

 でも手紙渡してくれた子は、A組の女の子に頼まれたって……。
 それって、どういうこと……?
「でも、女の子からって……」
 あたしが聞こうとしたら------。
「俺が頼んだんだ。あんた、手紙の相手が男からだとわかったら、会ってくれそうないからさ。姉貴から、猫の便せんまで貰ったりして……」
 彼が照れくさそうに、そう言った。
 うん。
 確かに男からの手紙だとわかってたら、あたし、絶対に会わなかった。
「あ☆ 大事な話って?」
 あたしは、突然思い出したかのように言う。
「そう、大事な話。もう想像つくと思うけど……」
(えっ、何が……?)
 あたしは意味がわからず、首を傾げる。

「……俺、君に一目惚れしたからさ。良かったら、付き合ってくれないかな?」
 彼が真顔で言った。
(告白されちゃった……)
 でも、あたし驚かなかった。
 いきなりだったけど、少しも驚かず、冷静に受け止めると、頭を下げながら。
「ごめんなさい」
 即答で、そう言い返した。
(まさか、告白されるなんて思ってもみなかったなぁ……)
 あたし、駄目なの……。
 どうしても、涼を忘れることなんて出来ない。
 涼以外の人と付き合うなんて、考えられないもの……。
「今、付き合ってる奴……いるんだ?」
 帰ろうとするあたしの後ろから、少し大きめの声で彼が問い掛けた。
「うん!」
 あたしは立ち止まり、振り返ると、そう笑顔で答えた。
 だけど……。
 作り笑顔は、すぐに消えてしまう。
 本当は嘘なのに……。
(愛した人は……もう、いない)
 そう思うと、あたし胸が苦しくなる。
「……そうか」
 彼が溜め息≪ひとつ≫ついて……。
「友達ならいいだろ? ただの友達なら……」
 彼が優しい声で、そう言った。
(友達? ただの友達なら……)
「……うん」
 あたし……気付いたら、そう返事してた。
 友達ならいいのかなって、一瞬……そう思ったから。
 彼の声が、涼に似てるから------?
 ------わからない。
 そんなこと、わからない。
 ……違う……。
 そう、違う……。
 どんなに声が似ていても、涼じゃない。
 涼は、いない。
 ただ、それだけは……わかってる。

「それじゃ、自己紹介。俺、新田卓哉。18歳。1ヶ月ほど前に≪3年A組≫に転校してきて、一目惚れした子に、たった今、告白した。まっ、そんなことくらいかな。断られたけど……」
 そう言って、彼が……。
 ううん。
 新田君が、ニコッと笑ってくれた。
「あたし……日高」
「日高由菜、18歳。3年D組。それくらいは、知ってるよ」
 新田君が、そう言って。
 あたしの顔を見ると、意味有り気に微笑んで。
「友達から……ってことで、よろしくなッ!」
 そう言った。

 えっ。

 友達から……って。
 それって、どういうことぉ……!?


≪続く≫

Return


携帯待ち受け記事をご覧の方は、「拍手のお礼」ページにて画像が表示されますので、下記の拍手ボタンより「ダウンロード」して下さい。それ以外の記事からは、普通の「拍手」になります。

Theme : 自作連載小説 * Genre : 小説・文学 * Category : 創作小説/連載

Comment-open▼ * Comment : (0)

【小説】扉を開けて(3)

扉を開けて(3)     作/RENJI恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。お昼休みも、あと数分で終わろうとしている時、由菜の肩をポンポンと叩く子が……!...

続きを読む

扉を開けて(3)     作/RENJI

恋人だった涼の思い出を引きずったまま、一歩も前に進めない由菜。
お昼休みも、あと数分で終わろうとしている時、由菜の肩をポンポンと叩く子が……!
ReadMore



 あたしにとって……。
 唯一の安らぎ、お昼休みが、あと5分で終わろうとしてる時------…。
「やだぁ! 5時間目の授業って、英語だよね?」
「そうだよ」
「……ごめん。教科書借りに行くの、付き合ってぇ~」
そんな声が、教室の後ろの方から聞こえてきて、あたしと美恵は目を合わせると、にっこり微笑んだ。

 ------何故なら。
 あたし達も、たまに同じことやるのよね。
 きっと皆も、一度はあるんじゃないかしら?
 教科書忘れて、他のクラスの子に借りに行く。
 なーんてこと。
 だから≪同じことしてるなぁ♪≫って、思ったりしてたの。
 そしたら、突然!
 ポンポンと、あたしの肩を叩いて、同じクラスの女の子が手紙を差し出した。
「はい、コレ。A組の女の子から頼まれたよ」
「えっ? あたしに……!?」
 自分を指差して確かめる。
「うん、そうよ。日高さんにって……」
「あ、ありがと……」
 あたしは手紙を受け取った。
(A組の誰かなぁ……?)
 手紙の封筒には名前一つ書かれていない。
 あたしは首を傾げながら封筒を開けると、中から手紙を取り出した。
 二つ折りになっている手紙を広げてみると、あたし好みの、とても可愛い≪子猫≫の絵柄の便せんに……。

      日高 由菜   様

    放課後。
    桜の木の下で待っています。
    大事な話があるので、絶対に来て下さい。

 そう書いてある。
 この手紙を誰がくれたのか、とても気になるけど……。
 それでも……、あたしは女の子がくれた手紙ということで、なんとなく安心してた。
 なのに、美恵が……横から手紙を覗き込み。
「この手紙……女子からじゃないと思うなぁ」
 小声で、そんなこと言うの。
「ええ------ッ!?」
 あたしは、悲鳴に近い声を上げた。
 ちょ、ちょっと待ってよ!
 じゃあ。
「まっ、まさか、男からの手紙だなんて言うつもりッ!?」
「うーん。多分ね」
 美恵が真顔で答えた。
「どっ、どうして、そう思うのよォ!?」
「どうして……って聞かれても、あたしにもわからない。わからないけど、そんな気がするのっ!」
 美恵の言葉と同時に、始業のチャイムが鳴り、5時間目の授業が始まるけど……。
 あたしの頭の中、授業なんかどうでもよくて、手紙のことだけで一杯になってしまった。
 まったく、美恵が変なこと言い出すから……。

 うーん……。
 手紙をくれた子に、会った方がいいのかなぁ……。
 そうよね、大事な話がある……って書いてあるし。
 だけど同級生でも、あたしの知らない子かも……。
 しかも、もし男だったら、会いたくないなぁ------…。 

 美恵の言ったこと、まるっきり信じちゃう訳じゃないけど、さ。
 当たるのよね~。
 美恵の言ったことって……。
 だから手紙をくれたのは男なんじゃないかって、思い始めたら……。
 気になって、気になって……。

 気が付くと------…。

 終業のチャイムが鳴り、結局、少しも授業に身が入らないまま終わってしまった。


≪続く≫

Return


携帯待ち受け記事をご覧の方は、「拍手のお礼」ページにて画像が表示されますので、下記の拍手ボタンより「ダウンロード」して下さい。それ以外の記事からは、普通の「拍手」になります。

Theme : 自作連載小説 * Genre : 小説・文学 * Category : 創作小説/連載

Comment-open▼ * Comment : (0)